つい2週間前、16kgの缶一つも満足に持ち運べない新人の女が入ってきた。見た目が可愛いらしく現場のオジサン達は狂喜乱舞。24歳というオジサンたちの娘や孫という年齢も肝だったらしく前評判から無意味に高かった。私は上司にお願いした。どうせ入れるなら不細工な女子にしてください。ちやほやされて育った女は使えません。根性太くて虐げられた経験のある『女性』なら耐えられます。
『ごめんもう決まっちゃった…。』
課長〜(ToT)
こうして新人が私の仕事を引き継ぎにやってきた。この会社に入って最初の弟子である。上司から最近の若い子は脆いから大切に辞めないように育てるように指示されている。だが!私の部署はクレーム処理係。色々な部門、部署、お客様に交渉してナンボである。相手になめられたら最後である。従って、科学知識、製品知識はもとより検証、証明、分析の始点から品質管理できなければならない。
当然訓練は半端な気持ちでは勤まるレベルではなく、開発技術に物申せるレベルの研鑽が必要となる。もとよりもたないのであればさっさとリタイヤしていただいた方が会社にも本人にもためになるのだ。上司に文句言われるのと始末書を書かされるのを覚悟の上で厳しく訓練を施すことにした。若干24歳の小娘だが化学系の大学を出た訳だし社会人経験も2年余りある大人である。彼女の為にも厳しい方が良い。たとえいなくなることになってもな。
そうして向かえた2週間前の配属初日。
16kg缶を持たせた。
『重いです〜重くて動けません〜。』
で?
『持ち上がるんですけど歩くとふらつきます〜』
だから?
『危ないと思うんですけど…。』
気をつけて運べ。
『…。』
最初にはっきり言っておくぞ。私は知恵は貸しても手はかさん。腕力が足りなきゃ工夫して運べ。工夫できなきゃ筋力アップしろ。いずれにしても今日中にこの荷物を指定の場所まで全て運び終わらなければ仕事は終わらないと認識すること。文句たれている暇は無いぞ。いままでどう扱ってこられたか知らんが、私は女性だからって特別扱いもしないし、できん事が出来るようになるまで手加減抜きで指導する。少しでも甘い考えが頭にあるなら今の内に捨てておくんだな。内の課の他の男共もみたいに姫扱いはしねーからな。嫌なら今すぐ辞めること。この仕事はあなたには向かない。
『がんばります〜』
さっさと運べ。
『は〜い』
返事は短く『ハイ』
『ハイ』
こうして始まった訓練はやっとこ3週間目に入ろうとしている。言葉も大分まともになり今では缶運びも出来るようになってきた。作業は相変わらずド下手糞だがハリセンで叩かれながら文句も言わず黙々と頑張っている。
あのなぁ。頑張っている自分に酔ってるみたいだからあえて言っておくけど。頑張るだけなら『サル』でもできんだからな。
『酷いです〜。』『そんな言い方せつな過ぎますよ〜』
あんたが切ないかどうかは個人の主観だろうが!頑張ることが大事なんじゃない仕事においては結果に繋がることが大事なんだ。結果に繋がらない頑張りは無駄だ。やり方を変えろ。
『ふぇ〜(ToT)』
これでもやさしくアドバイスしてんだぞ。余りに間抜けだからヒントを与えたんだからな。
『ハイ、ありがとうございます…。』
よろしい。次。
タダ厳しいだけでは人は疲れてしまう。仕事をキッチリこなせた時には労いをかけてやる事もある。いずれにしても3ヶ月経過した段階で昇格試験がありそこにパスしなければ『クビ』になるか一生派遣として勤務するかが決定する。この期限内に一定のレベルに成長しなければ安定した収入のある立場には残念ながら彼女はなれない。今日も私は手加減抜きで指導にあたる。それが彼女へ向けることが出来る最大限の私なりの慈悲だ。